遺言に基づく所有権更正登記/ときには、法務局の対応に対して“正しく異を唱える”ことも

愛知県犬山市/名古屋市丸の内 の司法書士 丹羽一樹です。
先日、相続登記の実務で、制度改正後ならではのケースに対応することが事務所内でありました。
今回はその内容と、専門家として対応したことを共有したいと思います。
■経緯:「法定相続による共有名義の登記」がされている→実は「遺言の内容は単独相続」だった
ある不動産について、被相続人名義から相続人A・B名義へ法定相続分(持分2分の1ずつ)による共有名義への所有権移転登記がされていました。
しかし、実際には、この被相続人は遺言を遺していて、その内容は、「Aに(単独で)その不動産を相続させる」旨のものでした。
■そもそも「法定相続による登記」とは?
相続が発生すると、被相続人の名義だった不動産を、相続人の名義に変える手続きが必要になります。
このとき、遺言書がない場合や、遺産分割協議がまだ整っていない場合などには、民法で定められた相続分(法定相続分)に従って、相続人全員への共有名義へ所有権移転登記をすることができます。
例えば、「配偶者2分の1、子2分の1」という割合で、相続人全員の共有名義で登記されるようなケースです。
これが「法定相続による登記」です。
これはあくまで、民法上の基本形に従った暫定的な登記であり、後から遺言や遺産分割協議があれば、それに基づいて修正されることになります。
■登記制度として「法定相続による登記」ができる仕組み
「遺言があるのに、なぜ最初に法定相続で登記されてるの?」と思われる方もいるかもしれません。
登記制度では、登記官が相続の実態を調査したり、真の意思を確認したりすることはありません。
戸籍などの書類で相続人の範囲と法定持分が明らかであれば、形式的にその内容で登記が受理される仕組みになっています。
さらに、登記の申請は、相続人全員からでなくても、相続人の一人からでも、利害関係を有する第三者でも可能とされています。そのため、遺言の存在を知らない者が、「法定相続による登記」を進めてしまうケースもあります。
■遺言を提出して、所有権更正登記をすることに
上記のような遺言があった場合、既にされた法定相続による登記を、遺言の内容のとおりに所有権更正登記をすることが可能です。
今回のケースでは、A・B共有名義からA単独名義へ所有権更正登記を申請しました。
ちなみに、この申請はAのみの申請で可能です
かつてはこのような場合、Bも当事者として申請に関わる必要がありました。
かつての取り扱いでは、Aは遺言があるのに、結局Bの協力を取り付ける必要が有る訳です。
本来Aは、遺言があれば、(法定相続による登記など入れられていなければ、)単独で登記申請手続が可能であるのにもかかわらずです。
そこで、令和5年4月1日の法改正から、このような場合には、Aが単独で所有権更正登記の申請手続きをすることが可能になりました。
■所有権更正登記により、Aには新たに登記識別情報(通知)は発行されるか?法務局の対応に戸惑いも…
ここで問題になったのが、所有権更正登記により登記識別情報(いわゆる「権利証」)が発行されるかどうかです。
所有権更正登記によって、Aは登記上持分2分の1増えたことになります。
私は当然、この増えた持分について新たに登記識別情報が発行されるべきと考えていたのですが、登記完了後、法務局から登記識別情報が発行されていませんでした。
そこで、法務局に確認したところ、
「発行されないのでは…」
という返答が返ってきました。
不安になり色々と調べたりしましたが、しばらくすると、法務局から連絡があり、
「発行されました」
との連絡があり、最終的には無事に発行されました。
■法務局、市役所、金融機関──こういう機関でも“誤った説明”は案外多い
こうした「誤った説明」に出くわすことは、法務局に限らず、市役所の戸籍窓口や金融機関の相続担当でも決して珍しくありません。
ただ、一般の方にとっては、それが正しいのか誤りなのかを判断するのは難しいと思います。
「役所がそう言ったのだから正しい」と受け取ってしまうのも当然のことです。
■司法書士は“正すこと”も大きな役割の一つです
私たち司法書士は、ただ手続きを代行しているだけではなく、ときにはこうした誤情報に対しても「それは違います」と伝え、正す立場にあります。それが、専門職としての責任だと思っています。
私は、「制度を正しく理解し、必要なときには異を唱える」ことを、信頼していただく一つの軸にしていきたいと考えています。
これを読まれている方の中で、相続手続き等をしていく中で少しでもご不安のある方は、お気軽にお問い合わせください。簡単なご質問であれば、(もちろん費用など不要で)回答させていただきます。