不動産決済に司法書士が立ち会う理由ー「ただの手続き」ではない役割についてー

名古屋市丸の内の司法書士 丹羽一樹です。
不動産の売買をするとき、銀行等で売主や買主、不動産仲介の方が集まり、いわゆる“決済”を行うことがあります。
ほとんどの場合、その場には司法書士が同席します。
売主・買主の方は、
(もし説明を受けていなければ)
「司法書士は何のために来ているのか?」
「手続をするためだけに来ているのか?」
と感じるかもしれません。
しかし、実は、司法書士はただ手続き(だけをしているように見えますが)をするためだけに来ている訳ではなく、当事者の権利が安全に確保されることを確認するために、その場に立ち会っています。
1 登記申請をするためだけではなく・・・
決済での司法書士の役割は、単に「法務局へ登記申請をするために押印をもらう」だけではありません。
たとえば、
- 売主・買主の本人確認・意思確認
- 権利証など登記申請に必要な書類の確認
などを行った上、問題が無ければ、
- 売買が安全に行われる
- 登記(名義変更)も確実に可能な状態である
と責任を持って判断し、
- (買主が融資を受ける場合)銀行に対し、買主への融資実行
- 買主から売主への売買代金の支払(振込)
を当事者に促します。
つまり、売主にとっては不動産の所有権を、買主にとっては高額な売買代金を、(銀行にとっては高額な融資を、)安全に相手に移すために、第三者であり資格者である司法書士が判断し見届けるために立ち会っています。
2 通常は気にしなくても問題の無いこと
上記1に関して何も問題が起きなければ、スムーズに決済が進むため、結果的に「司法書士はただの手続屋」という印象で終わることがほとんどです。
私としても、決済は「とにかく問題無く終わることに越したことはない」と願っており、実際も問題無く終わるケースが圧倒的に多いため、結果的に司法書士の役割が分かりやすく目立つケースは少ないです。
問題無く終わるケースは、不動産仲介の方がしっかりと事前に案内をしていただいていることに起因しています。
しかし、司法書士への手数料がかかるため、私としては、司法書士の本来の役割までなるべくご理解いただけると幸いです。
(ちなみに、買主が当日支払う手数料のうち、おおよそ半分ほどは「登録免許税」という法務局へ納める税金が含まれています。)
3 決済は“速く”“早く”進むことに越したことはないが、それが本当の目的ではない
決済の時間のうち、資金の移動(融資実行や売買代金の送金)の手続をスタートしそれが完了するまで、かなり時間がかかることがあります。30分以上かかることや、1時間を超えることも有ります。
そのため、我々司法書士は、なるべく速く(それでも確実に)本人確認・書類の確認・押印案内等を進め、なるべく早く資金移動に進めるように動くことを意識しています。
それでも、私個人としては、お客様の大事なお手続きとなるため、“流れ作業”に振り切れないようにも意識しています。
バランス感覚が試されるところです。
ただ、それは問題が無かった場合であり、問題があれば立ち止まざるを得ません。
“問題があれば”とは、ほとんどが次のようなケースです。
- 売主が権利証を持ってきていない、あるいは違う不動産の権利証を持ってきた(過去の記事をご参照ください)
- 実印だと思って持ってきたものが、印鑑登録のもの(印鑑証明書にある陰影のこと)と異なる
なぜ、このような場合に司法書士が決済の流れを止めるのか。
それは、このままでは登記手続きができないため、登記を買主名義にできないからです。
一般の方からすれば、
「すぐに名義変更ができなくても、後からできればいいのでは?とりあえずお金を支払いたい/受け取りたいんだけど…」
と思われるかもしれません。
決済の本来の意味合いを知らないと、そう考えるのも当然かと思います。
「確実に買主名義にできる」という書類が揃っていない状態は、言い換えると、売主が第三者への名義変更も可能な状態と言えます。
もちろん、私はこれまで数百件と決済に立ち会ってきた中で、そのような悪質な売主様に会ったことは有りません。
しかし、資格者として、「たぶん大丈夫だろう」という前提で進めることはできません。
そのため、早く終わることだけが目的ではなく、必要があれば立ち止まることも有り得るのです。
現実では、こうした点はどうしても伝わりにくい部分でもあります。
<余談>
ちなみに、司法書士(事務所/法人)は、決済が終わればなるべく早く登記申請をする使命があります。
理由は大きく3つ有ります。
- 売買対象不動産に対し、他所から何かしら別の登記申請がされる(あくまで可能性として)と、買主の権利が守られなくなる。
- 当日中に無事に登記申請をするまで安心できない。何かしらのトラブルで、登記手続ができなくなることを恐れている。
- 「登記申請済み」という連絡を関係各所も待っている。
司法書士は、権利がきちんと守られるかを確認し、その結果に責任を持つ立場です。
その点が、少しでも伝われば幸いです。
おわりに
決済の場では何も問題が起きず、無事に終わることが一番です。
その「当たり前」が成り立つために、司法書士の確認があります。
今回の記事が、不動産の売買をされる方の頭の片隅に入れていただけたら幸いです。
