在日韓国人の相続及び相続放棄について、日本との相違点

愛知県犬山市/名古屋市丸の内 の司法書士 丹羽一樹です。
日本で生活をしていても、国籍が韓国という方の場合、相続が発生したときに、つい日本の民法に基づいて判断をしてしまうと、「実は判断が誤っていた…」ということが起こり得ます。
では、「在日韓国人の方の相続は、どの法律に基づいて判断をしていくべきか」から検討していきたいと思います。
1. 準拠法の決定:日本法or韓国法のいずれを適用するのか
- 日本の法の適用に関する通則法第36条では、「相続は被相続人の本国法による。」と定められています。
そして、韓国の国際私法第49条第1項では、「死亡当時の被相続人の本国法による。」と定めれています。
つまり、韓国籍の被相続人の相続は、韓国法が原則として適用されます。 - ただし、遺言に「相続は日本法による。」旨を明記し、被相続人が遺言作成時から死亡時まで日本に常居所を有する場合には、日本法が準拠法となります(韓国の国際私法第49条第2項)。
2. 韓国民法(相続法)の基礎知識
韓国民法は、日本民法と類似する点が多いですが、異なる点も少なくないので、注意が必要です。
■ 相続人の範囲・順位(韓国民法 第1000条・第1003条)
- 第1順位:配偶者 + 直系卑属(最も近親の者)
- 第2順位:配偶者 + 直系尊属(最も近親の者)
- 第3順位:兄弟姉妹
- 第4順位:4親等以内の傍系血族
*日本民法との違い
・第3順位について、日本民法では、「配偶者+兄弟姉妹」が共同相続人となりますが、韓国民法では、配偶者がいる場合、直系卑属も直系尊属もいなければ、配偶者のみが相続人となります。
・第4順位について、日本民法では、そこまで相続権は移りません。日本民法では、配偶者がいる場合、直系卑属も直系尊属もいなくて、さらに兄弟姉妹もいないときに、配偶者のみが相続人となります。
■ 代襲相続(韓国民法 第1001条・第1003条)
- 直系卑属(第3順位の場合は、兄弟姉妹)が相続開始前に死亡、又は欠格者になった場合、その者に直系卑属がいるときは、その直系卑属が死亡、又は欠格した者の順位に代わって相続人となります。
例えば、子(第3順位の場合は、兄弟姉妹)が被相続人より先に死亡している場合、被相続人から見て孫(第3順位の場合は、甥・姪)が代襲して相続人となります。 - 直系卑属(第3順位の場合は、兄弟姉妹)が相続開始前に死亡、又は欠格者になった場合、その者に配偶者がいるときは、その配偶者が死亡、又は欠格した者の順位に代わって相続人となります。
*日本民法との違い
- 韓国民法では、配偶者も代襲相続人になります。
日本民法では、配偶者は代襲相続人になりません。 - 韓国民法では、兄弟姉妹の代襲に関して、下の代への代襲について制限はありません。
日本民法では、兄弟姉妹の代襲に関して、次の代(甥・姪)までしか代襲しません。 - 韓国民法では、被相続人の養子の代襲に関して、養子縁組より前に生まれた養子の子も代襲相続人になります。
日本民法では、養子縁組より前に生まれた養子の子は原則として代襲相続人になりません(ただし、例外有り)。
3.子が相続放棄をしたときの影響
事例
被相続人:A(両親 及び その上の直系尊属は、先に他界している場合)
配偶者:B
子:C・D・E
孫:F(Cの子)
弟:G
(1)日本民法の場合
- 子Cが相続放棄をした場合、相続人は配偶者Bと子D・Eとなります。FがCを代襲して相続人となることはありません。
Cが相続から抜けるだけという結果となります。 - 子C・D・E全員が相続放棄をした場合、相続人は配偶者Bと弟Gとなります。
(2)韓国民法の場合
- 子Cが相続放棄をした場合、相続人は配偶者Bと子D・Eとなります。FがCを代襲して相続人となることはありません。
Cが相続から抜けるだけという結果となります。つまり、日本と同じです。 - 子C・D・E全員が相続放棄をした場合、相続人は配偶者Bと孫Fとなります。
この点が日本との大きな違いと言えます。
考え方としては、孫Fは決して代襲をする訳ではありませんが、第1順位の直系卑属として登場してくることになります。子全員が相続放棄をした場合、孫Fは第1順位の直系卑属の最も近親の者となるためです。
これらのことから言えるのは、韓国民法の場合、日本民法と異なり、子が相続放棄をしても、孫に相続権が移ることを見落とししないように注意することです。
4.相続放棄のその他の注意点
※韓国民法の場合、日本民法に比べて、相続人の範囲が(上記のとおり)広く定められています。
つまり、相続人全員が放棄をしたいとき、日本民法では第3順位の兄弟姉妹までで済むところ、韓国民法では、第4順位の4親等以内の傍系血族(甥・姪・おじ・おば・いとこ)の全員が相続放棄をする必要があります。
※相続放棄の期限についても、日本と韓国では考え方が少々異なりますので、その点も注意が必要です。
日本民法と同じく、韓国民法も、相続放棄をしたい場合には、「相続の開始があったことを知ったときから3か月以内」に家庭裁判所に相続放棄の申述をする必要があります。
問題は、3か月経過後でも相続放棄が認められる可能性があるかどうかです。日本では、3か月経過後でも、相続財産が全くないと信じるにつき相当な理由がある場合には、「相続財産の全部もしくは一部の存在を認識したとき」からの起算点を認める可能性があります(ただし、必ず認められる訳ではなく、事例ごとに判断されます)が、韓国では、例外は認められず、起算点は「相続発生の事実と自己が相続人であることを知った日」であると厳格に解されます。
そのため、韓国の場合、3か月経過後に債務超過であることを知ったとしても、相続放棄は認められません。(ただし、限定承認の道は残されています。)
以上のように、日本と韓国では大きな違いがありますので、重大な注意が必要となります。
ご不安のある方は、お気軽にご相談ください。